Tuesday, August 6, 2013

【雑記】2014年度UTMFのエントリー条件を見ながら考えた色々なこと


 トレイルランニングを始めてしばらくしてからいつか出てみたいと思っていた大会がある。The North Face Ultra-Trail de Mont Blanc、略してUTMBだ。最初にUTMBを知ったのはいつだったか。渡米してしばらく自分の好きなように走り続けていた時にはフルマラソンを超えて走るレースがあるなんてことは全く知らなかった。キリアン・ジョルネ(Kilian Jornet)やスコット・ジュレク(Scott Jurek)の存在はおろか、鏑木毅さんのことも当たり前のように知らない、ジョギングが好きなだけの市民ランナーだった(今ももちろん市民ランナーですが、知識だけは増えました(笑))。今思い返してもいつキリアンや鏑木さんやハル・コナー(Hal Koerner)やマイケル・ウォーディアン(Michael wardian)や、セバスチャン・セニョー(Sebastien Chaigneau)やディーン・カーナーシス(Dean Karnazes)を知るようになったのだろう。
 
 トレイルランニングの世界に少しだけ足を踏み入れた時から自分の知らない新しい世界が広がっていく、そんな気はしていた。街中の舗装道を走るマラソン大会とは違って、途中からは時々すれ違うリスやシカなどの動物以外は誰にも合わず、自分の走る足音と風の音だけが聞こえる孤独な旅。木々に結えられた色鮮やなコースマーカーのリボンを見失わないように目を凝らしながら黙々と一歩一歩足を前に繰り出していく。周りの風景に目を取られて足元の岩や木の根っこに躓かないように注意しながらも、時々木々の枝葉から見える青空を仰ぎみて、なんでこんなところに自分は今いるんだろうとふと考えたりする。

 こんな風に、今自分が思い出しているトレイルランニングの原風景は間違いなくバージニアの山奥の風景なんだけど、さらにその風景の奥にある自分にとっての原風景とは、少年時代に放課後裏山まで水晶を友達と一緒に探しに走り回っていた、あの幸せな風景だったのかもしれない。その幸せだった記憶を追体験するために今も走り続けているというのが、案外トレイルランにはまっている理由だったりして。


  (少年時代よりさらに前の幼少時代の私。さて、私はどこにいるでしょう?)

 26.2マイル(42.195キロ)を越えたその時から1マイル、1マイルと距離が伸びていき、50マイルに挑戦しようとしていた頃、この先に何があるんだろうと、そう考えていた時にUTMBでボロボロになりながらも走り続ける鏑木さんの映像を見て衝撃を覚えた。その時からインターネットや近くにあるBarnes & Nobleという日本でいう紀伊国屋書店のようなチェーン店でウルトラマラソンの本を見つけ出しては読みあさり、知れば知るほど自分には遠い世界の話だと、でももしかしてこのまま1マイルずつ距離を伸ばしていけばその先に100マイルのゴールが待っているのではないかと思うようになった。

 こちらで出会うランナー仲間でもUTMBのことを知っている人はほとんどおらず、ごく一部のウルトラランナー達しか知らない暗号のような言葉だった。だけど自分がその「ごく一部」のグループに徐々に近づき、そういったアメリカのランナー達の中でもまだ「ごく一部」しか走る人がいない、26.2マイルを超えてトレイルを走るレースに出るようになっていく中で、そのいつか100マイル、という夢が、あともうちょっと頑張れば辿りつけるのかもしれない、という予測できる未来にまで近づいてきた。

 でもまだまだ半人前トレイルランナーの自分には先の話だろうと、毎年行われるUTMBやWestern States 100のライブ中継を、まさに他人事、完全に一観客として、TwitterやiRunfar.comDogsorCaravan.comなどでリアルタイムに更新されるレースの様子を固唾を飲みつつ見続けてきた。

 そんな中、UTMBの姉妹大会として2012年にUTMF、Ultra-Trail Mt. Fujiが母国日本で誕生した。UTMBは距離以上にどこか自分にとっては遠い世界に感じていたけど、UTMFが誕生して一気にその距離が近づいてきた気がした。実際の距離はアメリカからだとフランスに行くほうが断然近いんだけど(笑)、やっぱり母国での開催ということで、物理的な距離以上に精神的な親しみ、近さを感じることができた。でもそうは言っても自分にはまだ手が届かないんじゃないかと思っていた矢先、「2014年大会開催決定とエントリーについて」がUTMFのサイト上で先日発表された。

 まあ冷やかしも兼ねてエントリー資格をちょっと見てみるか、とチェックしたところ、今年からUTMBと同様のポイント制が導入されたようだ。ポイント獲得のレースは日本国内レースと海外のレースで分かれている。私のように海外のレースしか出ていない選手はUTMBの参加資格ポイントを得られるレースと同じ条件になるらしく、UTMBのウェブサイトで自分のレースの資格ポイントを確認する仕組み。

 ただ、私が出てきたのはアメリカの中でも言ってみればマイナーな、メリーランド州やヴァージニア州で行われてる地元レースばかり。参加者全員でも200人や300人規模の小さなレースで、参加費も35ドルという破格の安さが中心。ゴールしてもメダルも何ももらえなかったり、もらえたとしてもTシャツだけだったりという手作り感溢れるアットホームなレースがほとんどだった。まさかそんなレースがUTMBのポイント獲得対象レースになってるはずが・・・あったんです。しかも全部
(例えば Bull Run Run 50 Mile や、Stone Mill 50 Mileなど。いずれもUTMBのサイトでは2ポイントのレース。)



 2014年度のUTMFエントリー資格を得るためには「2011年10月1日から2013年9月30日までの2年間に開催されたエントリー資格レース、最大2レースで合計4ポイント以上を獲得していること」となっているのだが、自分は4ポイントどころかダブルスコアの8ポイントを既に稼いでいることが判明。これは、いつ応募するの?今でしょ!(←日本の流行には敏感なつもりです!え?すでに古い?)とまだ応募開始の10月1日まで時間があるにも関わらず、既に家族にもこれがいかにすごいことかを何度も説明して説得を開始。その結果、妻の実家も巻き込んでの家族会議中(←いまここ)、という状況に。

 まさか自分があの大舞台のスタートラインに立つ資格があるなんて、と身震いする思いもしますが、これ、もし自分が日本にいたらどうだったんだろう?と「エントリー資格レース(日本)」(PDF)をチェックしたところ、ポイントが獲得できるレースの少なさに驚いてしまった。しかも各レースのポイントが少なくて、最大2レースで4ポイントという資格をクリアするためには普通の市民ランナーでは結構厳しいんじゃないかと思うんですがどうなんでしょう?レース自体は数があっても必ずしもアメリカみたいに全国津々浦々で開催されているわけでもないし、参加するためには泊まりがけでしか行けない場所も多く、しかも大抵高い参加費を払わなければならず、それでも他に選択肢がないため数少ないレースにランナーが殺到するような状況。レースが行われる地域へのアクセス方法を確保し、エントリーのためのクリック合戦や抽選を勝ち抜いて、さらに家族の理解を得られたところで、ポイント獲得のために年に何回も遠征できる環境にある市民ランナーってどれくらいいるんだろう?こちらでは朝ちょっとだけ早く起きれば気軽に参加できてしまう2ポイント獲得の50マイルレースなんて数ヶ月に1回の割合で近所で開催されているのと比べると、正直申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 参考までにUTMFおよびUTMBのサイトから、エントリー資格ポイントを稼げるレース数の日米間の過去3年間での単純比較をしてみたのですが、その差は歴然すぎた・・・。
  1. 日本 2011年 5
        2012年 30 
        2013年(1/1-9/30までのレース) 26
  2. 米国 2011年 150
        2012年 172
               2013年(1/1-9/30までのレース) 120


 こういう状況を見て日本はまだまだトレラン後進国だと切り捨てることもできるけど、逆にまだまだトレイルランニングという新しいスポーツが拡大できる余地が山ほどあるとも言えるんじゃないだろうか。もちろん日本特有の規制が壁となったり、地権者の方との根強い交渉が必要なので簡単に拡大できるとは言えないけど。来年の今頃には日本に帰任している自分にとっても、この走りたいけど走れないという状況は全く他人事なんかじゃない。

 こんな半人前トレイルランナーの自分であっても、日本でのトレイルランニング、ウルトラランニング界を帰国後は盛り上げていかねばならないのではないだろうか、と誰に頼まれてもいないのに、こんなよく分からない使命感を、今回のエントリー資格レースの海外と日本のレース状況を見比べて強く感じてしまった。

 さらに蛇足(?)ですが、さらっと本家UTMBのエントリー資格も見てみたところ、「7 points acquired between 2012/01/01 and 2013/12/31 (in 3 races maximum)(2014年度レース)」となっていて、なんとこれも実は既にさらっとクリアしていました・・・。このエントリー資格レースバブルのアメリカで、まさに自分の足で稼いだポイントが有効な内に、UTMBのほうも申し込んだほうがいいんじゃないかと思わないほうがおかしい。じゃあいつ申込むの?今でしょ!(←まだ申し込めない)。
 ただこればっかりは本格的な家族会議(家族裁判?)にかけねばならず、そっちのほうが100マイルよりもはるかに長くきつい行程になるんじゃないかと今から弱気になってしまっています・・・。

 ふと振り返るといつも裏山を友達とたいしてキレイでもない水晶を探して走り回っていた小学生の頃の自分がいて、それを100マイルという途方も無い距離のスタートラインに立とうとしている現在の自分が見ている。そしていつか、そんな100マイル未経験だった頃の自分を、もう少しだけ長い距離の旅に出ようと準備している将来の自分が、ちょっと遠くで待っている。今、私はそんなところに立っているのかもしれない。でも今はあまり先の事は考えず、とりあえず半人前ランナーとしてただ前に進むことだけを考えよう。Nowhere will be Your Somewhere. So just run forward.

 そんなとりとめのないことをUTMFのエントリー資格を見ながらなんとなくと考えた夜でした。

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