Saturday, April 19, 2014

UTMF直前補給対策セミナー by 齋藤通生氏(NeoDirection代表、ペスパ アスリートサービス)

(画像はTHE NORTH FACE FLIGHT TOKYOウェブサイトより)

 この1ヶ月間はUTMFが近付いているおかげで都内各所でUTMF/STYに向けての対策講座が目白押しです。私が参加しただけでも、3月25日(火)に御徒町のアートスポーツ・OD Box本店さんで行われた鏑木毅さんによる対策トークイベント(前編後編)、4月4日(金)に原宿の THE NORTH FACE PRESS ROOMにて行われたゴールドウイン三浦務さんによる対策ワークショップ(前編後編)、対策イベントではないですが、4月16日(水)に神保町のさかいやさんで行われた鏑木毅さんとiRunFar.comでお馴染みのBryon Powel、Meghan M. Hicksさん、そしてDogsorcaravan.comこと岩佐幸一さんで行われたトークイベントと、練習する暇もないくらい?イベントが続いていました。もちろんこれは一部で私が行けなかったイベントも多数あります・・・(トニー・クルピチカのイベントとかイベントとか・・・(涙))

 その中で鏑木さんの対策トークイベントと同じくらいためになった講座が、オシャレな丸の内にあるオシャレな店舗のTHE NORTH FACE FLIGHT TOKYOで4月11日(金)に行われた『UTMF直前補給対策セミナー』でした。ちなみにこのお店のスタッフさんは全員トレイルランナーで、去年のUTMF100位以内に入った凄腕ランナーの方もいらっしゃいます。是非丸の内に行った際にはお立ち寄りください。閑話休題。




 このセミナーではNeoDirection代表でペスパ アスリートサービスのベスパ斎藤こと齋藤 通生さんがUTMF/STYの補給対策に絞って話してくれました。単なるレースのためではなく、今後のラン人生にとって示唆に富んだセミナーでした。

 配られたレジュメのタイトルは『UTMF、STYの準備と補給』



 完走を目指す場合、コースを平均時速4km+のスピードで46時間(あるいは24時間)移動し続けることになります。レース中に必要な熱量を補給しながらのレース運びが大切なことであり。確実な補給無しにパフォーマンスを保つことは絶対にありえません。
 レースを想定した事前のカーボローディング、直前の食事、スタートからフィニッシュまでの補給、フィニッシュ後のリカバリーと順を追ってお話致します。                                 
                                                    -配布レジュメより引用-

 内容に入る前に、斎藤さんから完走に向けて大切なものとして次の3点があげられました。

  1. フィジカル:46時間耐えうる身体
  2. メンタル:絶対完走するぞという気持ち
  3. 健康状態と補給:レース時の補給だけではダメで、スタートする時の身体の状態が重要。50キロ以上のレースの場合はスタートの時点で疲弊しているとダメ。

 今回は補給についての説明でしたが、補給よりも身体をいかに健康な状態でレース当日にもっていけるかのほうが大切だと言う言葉が印象的でした。自社製品の宣伝もあるかと思ったのですがそんなことはなく、それよりももっと根本的な、山を走る、長距離を走るための心構えを教えられたように思います。
 以下、配布されたレジュメに当日取ったメモを織りまぜてまとめました。例によって録音していたわけではありませんので間違いや、聞き逃しているところもあるかと思いますがご容赦ください。少しでもUTMFやSTYに出られる方の参考になれば幸いです。




1)リハビリテーションと装備のチェック


 個体差はありますが、ハードトレーニングを課した身体は満身創痍になっていると考えられます。筋肉痛の痛みが去っていくと、ほとんどのアスリートは回復したと思いがちです。しかし、酷使した内臓疲労は筋肉が回復する時間の2倍かかるとされています。
 もう一つ重要なのは装備の準備です。必要頻度に応じた的確なパッキング、各レッグに必要な補給物の整理など、事前の準備はかなり煩雑です。

 アイアンマンレースを終えた人の80%近くが肝硬変に近いくらいの状態になっています。それくらい長距離レースは内蔵に負荷がたまります。重要なのはレース開始前に筋肉と内臓を元の状態に戻し、できるだけ健康な状態でレースにのぞむことです。
 これからの2週間で内臓疲労を取るには、①睡眠をしっかり取る(8時間以上)、②22時〜24時にできるだけゆっくりする。③血流を良くする(暇があったら横になり、なるべく身体を水平に保つ)。レース前の食事も、炭水化物:蛋白質:脂肪を40:30:30というマフェトン理論の比率で。よく噛むことも重要。 また植物油などの不飽和脂肪を積極的にとり、加熱した油やマーガリンなどの摂取は極力避けてください。また、10日間の完全休養を取りましょう。10日間が長すぎると思う人であっても最低7日間はレストしてください。

 装備の準備についても、レースの1週間前には準備OKとなるようにしましょう。レース会場のエキスポでは忘れ物だけを買い足すつもりでいてください。レースの2〜3日前にはパッキングを終えていることが理想です。つまり装備の心配はレース前になるべく頭から除くことが重要です。

2)カーボローディング


 カーボローディングとは炭水化物を中心に摂取し(タンパク質を控え、いつもより20%〜50%炭水化物を多くする)、運動に必要な約2000kcalのグリコーゲンを体内蓄積するために行う行為で、レース前最低24時間(UTMFの場合は48時間)行うことが基本となります。スタート時の蓄積エネルギーの量が、レース距離が長くなるほどパフォーマンスの差として出てしまいます
 そしてカーボローディング時にもうひとつ重要なことは、繊維質(動物性、植物性)と、動物性脂肪の摂取を控える事です(動物性脂肪とは冷やすと固まる油のこと。オリーブオイルやココナッツオイルなどのオメガ3脂肪酸を代わりに摂取しましょう)。

 以前はカーボローディングと言えば72時間と言われていましたが、東洋人は西洋人と比べるとグリコーゲンを体内に蓄積しやすい体質のため、24〜48時間でOKです。UTMF/STYレベルの長距離レースだと、カーボローディングをやる、やらないでかなり差が出ます。

 控えるべき繊維質には野菜や肉が含まれています。体内に繊維があるとやがてガスが出て嘔吐したりジェルが食べられない原因にもなります。そうならないためにもレース前には繊維質をなるべく身体から出しておくことが重要です。
 

3)レース前の水分量チェック


 エネルギー以外にの補給も大変重要です。レースの話ではないですが、人間は食べ物は無くても最悪1ヶ月間生き残ることができますが、水は3日飲まないと死んでしまいます。レースでも脱水症状に陥らないように給水を計画的に行うことが大変重要です。脱水になると内臓の活動が弱くなりエネルギーの吸収ができなくなり、汗も止まり、結果熱中症となり、最終的には昏倒してしまいます。一度熱中症になるとレース中の回復は見込めず、そこでレースは終了です。

 自分自身の給水量をチェックすることは、レースに対してのリスクを減らす重要な準備です。身長、体重などの身体のボリュームにより給水量の差があります。これは練習時に自らの給水量を見出すことで解決するしか方法はありません。自分がどれくらい給水が必要かは、練習で走る前と後で体重を測り、体重の落差が3%を超えていたら給水量は足りません。体重の減少が1〜2%以内であればOKです。

4)スタートまでの補給


 カーボローディングにより体内に蓄積されたエネルギーを保持できるよう、スタート1時間前までエネルギーフードを少量摂取し続け体内のグリコーゲンが減り続けることがないように意識します。またスタート30分位前にジェルを1〜2本取り、少しでも多くのエネルギーを持ってスタートするという意識も大切です。

 具体的には、直前までのカーボローディングで2000kcalを貯めたとして、スタートまで+αのエネルギーを身体に入れ続け、タンクを満タンにして出発するようにしてください。人間は何もしなくても基礎代謝などで1時間につき、体重×4のカロリーを消費します。例えば体重が60kgの方の場合は1時間で240kcalが失われます。通常レースの3時間前に最後の食事を取ると思います。この食事の内容はカーボローディングと同じ内容のものが良いでしょう。これがレース終了までの最後のまともな食事となると思います。ただそこでしっかりグリコーゲンを貯めても、会場について3時間何も食べないとそれだけで720kcalが失われてしまいます。
 会場で動いて失うカロリーを補給するために、スタートまで少しずつ食べ続けてください。少量でいいので咀嚼し続けます。おにぎり、パワーバーなどでいいです。

 補給食についてですが、ジェル、グミ、バーで身体に吸収される時間が異なります。ジェルは15分、グミは1時間、パワーバーで1時間半〜2時間くらいかかります。おにぎりやバナナもパワーバーと同じくらいの時間で吸収されます。スタートの1時間〜30分前からは吸収効率を考慮するとジェルに変えたほうがいいでしょう。


5)ベスパの摂取タイミング


 まず、最初によくある誤解ですが、ベスパだけ摂取してもエネルギーにはなりません。ベスパは「ブースター」の役割を果たします。つまり身体の中にあるグリコーゲンの燃焼効率を良くするのです。

 スタート30分前にベスパ・プロ1パックを糖質と共に摂取することでグリコーゲンの燃焼効率を向上され、体脂肪の代謝を促進します。そして運動中の血糖値を安定した状態に維持することができます。ベスパの持続時間は約2〜3時間です。その時間を超えるような場合は、2〜3時間経過毎に軽量のハイパーを水とともに摂取することがベストです。
 また、激しい登りが始まる30分前に飲むのもかなり有効です。

6)レース中のカロリー補給


 自分がスタートしてからフィニッシュまでかかる時間を設定し消費カロリーを計算します。算出したカロリー数から1500kcalを引き、足りないカロリーをレース中に摂取することが補給という行為です。
 レースという特殊な環境においては、内臓のトラブルなどを最小限に抑えることがパフォーマンスアップに繋がります。行動中はジェルによるエネルギー補給になれることが基本です。
 ジェル(水分)だけでは腹がへるという話もよく聞きます。胃は食べ物が入らず水だけだとパイプみたいに縮まり、飢餓感のサインが出ます。その結果お腹が空く、ということになります。これを防ぐには胃を収縮させないように、少量の固形未消化物(グミや小さく切ったカロリーバーなど)を胃の中に残し続けることです。

 カロリー摂取のタイミングは、スピードではなく時間で計算してください。自分が何時間でゴールする予定なのかをまず予測します。運動中の消費カロリーは「体重の8倍〜10倍」程度です。例えば体重70kgの人がまあまあのペースで走る場合、1時間で消費するカロリーは最大で700kcalとなります。STYを10時間でゴールする予定だと、10時間で7000kcal消費することになります。カーボローディングで2000kcalが体内にあるとして、そこから1500kcalを引くと、5500kcalとなり、この5500kcalをレース中に摂取する必要があります。1時間では550kcal摂取となります。ジェルでカロリーを取る場合、約4本で450kcalになるので、15分に1本の割合で摂取する計算になります。


7)レース中のミネラル補給


 エネルギー摂取と同様に大切なのが、ナトリウム(塩分)のこまめな補給です。しかし給水には脱水ともう一つの落とし穴があり、それは「低ナトリウム血症」と呼ばれているものです。簡単に言うと水の摂り過ぎです。その結果、めまい、痙攣、頭痛、方向感の喪失などの症状が出ます。残念ながら現在低ナトリウム血症を防ぐ方法は見つかっていません。
 レース中にナトリウムが足りていないという判断は、指が曲がらなくなるなった時などで、その時はナトリウム(電解質サプリ、塩熱サプリ)を4錠摂取すると15分で症状は収まります。また、ナトリウムが不足すると汗が吹き出てきます。いわゆる滝汗です。軽度の脱水症状です。このように汗がよく出るのであればナトリウム不足だと思ってください。
 摂取量の目安として、夏のトライアスロンレースでは20分〜30分に1回が最大量。ただこれも当たり前ですが個人差がありますので事前に自分で適量を確認してください。
 山本健一選手の場合は30分に1錠。日中では20分に1錠摂らせているがこれでもむくんでエイドに戻ってくることもあるので計算は難しいです。
 塩熱サプリはそのまま水で流しこむのではなく、噛み砕いて水で飲み込むのが一番吸収されます。
 水かスポーツドリンクかということではどちらでも水分補給としてはOK。ただしスポーツドリンクの場合は薄めて飲んでください。ナトリウムの摂取もスポーツドリンクと飲む問は少し減らしてください。

8)リカバリー


 まずはフィニッシュ後30分以内に出来るだけ吸収の良いプロテインなどを摂取すること、同時に糖質(炭水化物(おにぎり、バナナ)+アミノ酸)をとっておくと筋肉の蘇生を促進します。レース終了日の就寝1時間前にも同じ摂取をするのが最良です。
 レース後は約6時間くらい筋肉は燃焼し続けます。翌日の朝までエネルギーを摂り続けないとレース後にハンガーノックになることもあります。

質疑応答


Q. カーボローディング時には繊維質の摂取を抑えるということですが、レース中の摂取はどうでしょうか?
A. エイドステーションで繊維質のものがあったら軽く食べる程度であればOKです。

Q. レース中の補給のタイミングについてもう少し教えてください。
A. 補給のタイミングはお腹が空いてからでは遅すぎます。上記の例で450kcalを毎時間摂る(15分に1本)のですが、スタートからずっと同じピッチで補給を続けます。貯金し続けることが重要です。

Q. レース中に膝などが痛くなった場合、痛み止め薬を使用することは大丈夫ですか?
A. 痛み止めを使う前に、補給が足りているかをまずチェックしてください。ハンガーノックになりかけの時、身体は筋肉を破壊してアミノ化してエネルギーに変えます。いわゆる筋破壊ですが、これが痛みの原因ということも多いです。痛くなった時には本当に関節などの痛みなのか、ハンガーノックから来る痛みなのかを確認するようにしましょう。
 ロキソニンやバファリンなどの薬は胃腸にダメージを与えますし、後から致命傷になる可能もありますので薬を飲む前に補給することが先です。
 エネルギーが十分にあれば筋破壊も起きず、そのため筋肉痛はほとんど起きません。エネルギーがない状態でベスパなどを飲んでも意味はありません。一番有効なのは「米+水」です。

Q. レース中に補給の計算をするのは特に後半厳しいのですが・・・。
A. エイドからエイド間の補給計画を事前にしてください。エイド間毎に必要な補給物(時にはライトなども含め)をあらかじめジップロック に入れてザックに入れておきましょう。そうすると次のエイドまでに必要な補給物を考える必要もないので、ジップロックに入っているものを全部次のエイドに着く前に摂ることだけすればよくなります。途中のドロップバッグ(UTMFのみ)で全部入れ替えましょう。

Q. 胃の調子が悪くなった場合は?
A. ガスター20や30(強力な胃腸薬)を事前に病院で処方してもらって、気持ち悪くなる前に飲むのがいいでしょう。

Q. レース中の給水についてもう少し詳しく教えてください。
A. 水、スポーツドリンクはいいですが、お茶、コーヒーはハイドレーションパックに入れるのはやめましょう。水の飲み過ぎも注意です。頭痛、視野の交錯が起こり、最後に昏倒する事態になることもありますので自分の水量をしっかりチェックしてください。

Q. 脱水になってしまった時の対処方法は?
A. 経口補水液OS-1(オーエスワン)のドリンクを飲みましょう。脱水の時のサルベージではOS-1が最も効果があります。ただし、レース中、走っている時は吸収できないので良くないので注意してください。

Q.  ハンガーノックになった時の対処方法は?
A. まず、立てるまでは横になって休みましょう。その時ジェル一本をまるごと水で飲んでください。その後ジェルもう1本の半分を飲んで、残り半分を口の中に入れてゆっくり摂取してください。約30分で動けるようになると思いますので、その後はしっかりと定期的にエネルギー補給をしてください。

Q. ジェルや水は色々ありますがどれが良いとかはありますか?
A. ジェルやパワーバー、水など、どれも効果は同じです。セブンイレブンとファミリーマートのおにぎりの違い程度しかありません。自分の好きな味であることのほうが重要ですので当日は新しいものは他人の評価で選ぶのではなく、今まで摂取した中で好みの味のものを持っていくようにしてください。

Q. カフェインの使用のタイミングについて教えてください。
A. カフェインはナイトパート、精神的にダウンした時に使用するとキックされます。常効果を最大限引き出すためには、レースの24時間〜48時間でカフェイン抜きをしましょう。カフェインはコーヒー、コーラ、紅茶やガラナなどに入っています。に摂るのではなく、眠気を取る時などここぞという時に使いましょう。一番いいのは、ここで使う、という所をあらかじめ決めておくことです。
 ジェルにカフェインが入っているもの(ハニースティンガーショッツ )がありますが、1回につき2本摂るくらいがいいでしょう。カフェイン入りのクリフバー であれば1つでOKです。摂取後45分〜1時間後に効いてきます。その後4時間は効果が続くので夜中の2時に摂った場合、朝の6時まで効くことになります。
 コーラもよく使われますが、当たり前ですがダイエットコーラなどでは意味がなく、普通のコーラを飲んでください。その場合も1口含む程度で十分です。その後キック効果がありますが反面後でガクっと落ちますので注意が必要です。
 カフェインを摂っても眠たくなった場合は、グミなどを奥歯で噛みしめてください。
 カフェインはこのように使いどころを決めて使うと効果が高いですが、脱水効果や胃腸がダメージを受ける場合がありますので使う所をしっかり考えておいてください。

Q. 山で低体温症になった場合の対処方法は?
A. 腹巻きやインナーを一枚プラスするなどしかない。これを食べたらいいとかは残念ながらないので、とにかく暖かいウェアリングをすることが重要です。

Q. 心拍数と補給の関係は?
A. 最大心拍数の7割で走れると補給効率はよくなります。その心拍だと身体がエンデュランスモードになります。ちなみにUTMF/STYのようなエンデュランススポーツにおいて、一度落ちた体力が戻ることは一切ありません。消耗戦なので、最初にどれだけしっかり健康な身体でスタートできるかが全てです。


 セミナーの最後に、「UTMFやSTYはゴールしないと辛いだけでな~んにも楽しくないですよ!だからコンディションを整えて万全の状態でレースをスタートできるようにしてくださいね。」と齋藤さん。私の場合はまず先日のハセツネ30Kでやってしまった右足首の捻挫を治して万全になるべく近づけてスタートしたいと思います!

Thursday, April 17, 2014

『鏑木毅 × iRunFar 世界のトレイルランニングの最先端を語る!』に参加してきました。



 本日、さかいやスポーツシューズ館で20時半から22時すぎまで行われた鏑木毅さん×Bryon Powellさん(iRunFar.com)、 Meghan M. Hicksさん(iRunFar.com)の対談、『世界のトレイルランニングの最先端を語る』に参加してきました。MCはDogsorcaravan.comでお馴染みの岩佐幸一さん。

 BryonさんはiRunFar.comを始める前はワシントンD.C.で弁護士をしていました。私がワシントンD.C.で働いていた時に住んでいたヴァージニア州アーリントンにも住んでいて講演後、ワシントンローカル話で少し盛り上がることができました(笑)。また、ヴァージニア州が誇るウルトラランナー、Michael Wardianさんとも友人でちょくちょく彼の話や写真が出たのも何だか懐かしくて嬉しかったです。

 さて、内容ですが以下の5つのパートに分かれていました。
  1. 鏑木毅、私を変えた海外レースの経験
  2. 世界で広がるトレイルランニングの最新事情
  3. 女子優勝、メーガンが語るサハラ砂漠マラソン
  4. 鏑木毅のGONTEXを使ったテーピング・テクニック
  5. UTMFはどんな展開に?
 パート1では鏑木さんが走ってきた海外レース、UTMBWestern States 100Bighorn 100での経験を写真や映像を交えつつ解説。私としては鏑木さんがアメリカのレースの雰囲気がすごく好きだというコメントが嬉しかったのと同時に共感しました。鏑木さん同様、アメリカのローカルレースのあのアットホームで参加者のみならずボランティアもトレイルランニングが大好きでホスピタリティに溢れている雰囲気は私も大好きでした。今考えればすごく甘やかされていたなとも思うのですが、だからこそあれだけ多くのレースが行われ、参加するランナーも多いのかなと思います。


 Meghanさんは鏑木さんがBighornのことを好きになってくれたのなら(Bighorn 100の正式名称は、Bighorn Mountain Wild and Scenic Trail Run)、今年鏑木さんが出場予定のHardrock 100はかなりワイルドだからもっと気に入るはず!とコメント。

 パート2ではBryonさんが今世界中でトレイルランニングが盛り上がっていることを肌で感じているというコメントから始まりました。色々な組織、大会が出てきて、North Faceやサロモンなどのメーカーも後押ししている状況ですが、それらがトレイルランニングの人気の原因ではなく、一番は参加するランナーや、国を越えた人のつながり、友情がこのトレイルランニングにはあることが、このスポーツが世界で成長している要因だと説明。また、インターネットの存在のおかげで世界中のレース結果を即日、もしくはリアルタイムで見ることができるようになったのも人気に火をつけた大きな原因だということです。
 Meghanさんは女性の参加者が増えていることを指摘。アメリカでは50Kや50マイルくらいの距離のレースでは今や男女比は50:50。さすがに100マイルレースではまだ10〜15%くらいだがどんどんいい選手が参加するようになってきている。

 パート3ではMeghanさんがここ何年も参加しているサハラ砂漠でのウルトラマラソンレース(250キロを7日間で走破するレース)、The Marathon des Sables について詳しく解説。2013年のレースではMeghanさんは優勝しています。鏑木さんも、トレランとは違うタイプのレースではあるけど、一度は出てみたい、心がくすぐられるレースだと言っていました。


 (Meghanさんのギア説明)

 (この足は2009年のレースの時のMichael Wardianさんの足!過酷!)

 パート4ではGONTEXの方によるテーピングの実演説明。参考になりました。ちなみに本日の参加者には全員貼足(ハッタリ)のサンプルをもらえました。UTMFで私も使おうと思います。

 そして最後のパート5ではMeghanさん、Bryonさん、鏑木さんそれぞれによる今年のUTMFの注目選手の紹介でした。

 Meghanさんは、女性選手ではヌリア・ピカス/Nuria Picas (スペイン・Buff)、男性選手ではフランソワ・デンヌ/François D’Haene (フランス・Salomon)が優勝候補だとコメント。

 Bryonさんは、女性選手ではやはりヌリア・ピカス、男性選手ではコンディションが良ければ原良和(日本・HOKA One One)フランソワ・デンヌ、そしてアメリカからはマイク・フート/Mike Foote (アメリカ・The North Face)が優勝候補だということでした。

 鏑木さんは今年のUTMFは強すぎる選手が多いので選ぶのが難しいとしながらも、フランソワ・デンヌイケル・カレラ/Iker Karrera (スペイン・Salomon)ライアン・サンデス/Ryan Sandes (南アフリカ・Salomon)あたりが有力だろうということでした。原さんにも是非2連覇を期待しているが、レースが始まってみないとどうなるか分からないのが100マイルレース。原さんが勝つためには天子山地までの前半でどれだけ逃げられるかにかかっているだろうとのこと。また、昨日一緒に走ったセバスチャン・シニョー/Sebastien Chaigneau (フランス・The North Face)もかなり調子が良さそうなので後半どうあげてくるかにもよるが優勝に絡む可能性は十分にあるということです。
 鏑木さんはUTMFはシーズンでいうと初めなので、実力よりも、コンディションが一番左右する要因になるだろうと指摘。スタート地点に最も良いコンディションで来れるかが優勝の鍵だということでした。

 今年出場する有力選手の情報についてはDogsorcaravan.comさんのこちらの記事をお読みください。

 最後には岩佐さんによるじゃんけん大会で勝者にはBryonさんの書いたトレイルランニングのバイブル、Relentless Forward Progress: A Guide to Running UltramarathonsやiRunFar.com特製バイザー、キャップなどがもらえるおまけ付き。私はもちろん開始早々に敗退しました・・・。ただし、参加者全員ステッカーもらえました!ありがとうございました。


 最後にはちゃっかり記念撮影。UTMFまであと少し。いい刺激になった夜でした。




Monday, April 14, 2014

【Race Report】第6回ハセツネ30K 完走はしたけれども・・・


はじめに

第6回ハセツネ30Kに昨日(4月13日(日))初参戦してきました。米国にいた時から名前だけは知っていていつか出たいと思っていた「日本山岳耐久レース(ハセツネCUP)」の出場権が今回のレースで1000位以内に入れれば優先的に得られるということもあり、いつものように事前にほとんど情報をチェックせず出場することにしました。

レース前



 自宅から一番安く会場最寄り駅に行くために朝5時に起きて西武新宿線→西武拝島線→JR五日市線と乗り継いで武蔵五日市駅に7時30分過ぎに到着。西武拝島線あたりからトレイルランナー比率が高まり、JR五日市線ではほぼ全車トレラン専用車の様相を呈していました。相変わらず皆さん速そうで、いつものようにビビッてしまっていました(笑)。

ハセツネ30Kとは

ハセツネ30KはハセツネCUPの入門用のファンレースと位置づけられています。何だかサンドイッチと紅茶でも仕込んでピクニックついでに走るようなそんな和気あいあいとしたレースなのだろうと想像していたのですが、実際走ってみると、どこがファンレースじゃ!と怒鳴り込みたくなるくらいにガチムチハードレースでした(個人の感想ですので楽々走れた猛者もたくさんいたとは思います。)。またトレイルはほぼシングルトラックのコースだったのですが、ランナーの数がコースのキャパシティを超えるほど多く、レベルも高いため最初から最後まで列がほぼ途絶えず、常に後ろから誰かに追い続けられる展開でした。自分のペースで走ることが好きな私にとってこれが精神的に辛く、ペース配分が大きく乱れた原因でもあります。

 さて、ここでハセツネ30Kについて知らない方用に公式ウェブサイトから大会趣旨を引用しましたのでご覧ください。

大会趣旨
ハセツネ30Kは、自己の限界を追求するトレイルランニングの最高峰「日本山岳耐久レース(ハセツネCUP)の入門大会として位置づけ、誰にでも楽しみながら大会に参加してもらえる日帰りのファンレースとして早春の奥多摩を走り抜けてもらいたいと企画しました。また、トレイルランニングの普及と、安全走行の啓発、自然保護の精神の高揚にも寄与したいと考えています。 また、地元あきる野市と提携しながら早春の奥多摩の美しさを感じていただき、五日市町の春の名物「野良坊」なども楽しんでいただけたらと思います。ふるってご参会いただければ幸いです。
  
※ハセツネ30Kも、奥多摩の自然の中を走るハードなスポーツです。途中にエイドもありませんし、すぐ救急車も来ません。ハセツネの原点は、「自己への限りない挑戦、そして、無事帰還するのが原則」は変わりません。当然、ルールもありますし、山岳保険の加入は参加条件です。また、大会運営上制限時間もあります。大会の趣旨をご理解の上、ご参加ください。

 重要なのは後半の「※」以下ですね。完全に見落としていました。すいません。まさに、日本山岳耐久レースの名に恥じない、ド・ハードでドMなレースでした。

 コースとしては以下のコースマップの通り、秋川リバーシオ(旧五日市青少年旅行村)をスタートして同じ場所に戻ってくるというループコース。走ってみてわかったのですがロード部分が結構あり、そこでどれだけ速く走れるかがキーとなっていた気がします。ただし、私の場合は、ロードのほうがトレイルよりは得意なのでそこで頑張りすぎて特に後半のこれでもかと続く登り下りに足が残らなかったということもありますので、ロードで飛ばし過ぎも気を付けたほうがいいです。



 累積標高差は以下の通りです。前半の第1チェックポイントの入山峠の登りと、15Kポストの登りが目立ちまずが、本当の勝負は20キロを超えた市原分岐からだと思いました。

               (公式ウェブサイトより)

レース展開

32キロのレースとはいえそこはトレイル。しかも急峻な日本の山が舞台。それはこの前の六甲縦走キャノンボールランで痛いほどわかっていたにも関わらず、ファンレースだという言葉を額面通り受け取ってしまった自分にはあんだけ辛かった過去の教訓を今回役立てることはできませんでした・・・。
 
 とはいえさすがにレース直前になると色々情報収集して、刈寄山登山口では渋滞するのでそこにどれだけ速く到達できるかが勝負だ、とか、水は途中13キロ地点で水場があるのでそこで水を補給すれば1Lくらいでも間に合う、とか勉強してレースに臨むことに。もちろんギアチェックの時には規定の1.5Lを500mlのボトル2本+500mlのサロモンソフトフラスク1本でクリアしたのですが、その後ソフトフラスクのみスタート前に飲み干してザックにしまうという暴挙に。これが本当に後々自分を苦しめる大きな原因となるとはスタート前の自分は知る由もなく・・・。

関門時間との勝負



事前の情報収集で3つあるチェックポイントの関門時間がのんきに走っているとクリアできない可能性があるということもあり、全ての関門時間に引っかからないようにすることをまずは目標としました。そしてもちろん、1000位以内に入って本選への挑戦権を得ること。スタートから入山峠までですが、刈寄山の渋滞を避けるためにはスタートダッシュが命!ということでしたが、刈寄山の渋滞の前にトイレの渋滞に引っかかるという大失態。一時はスタートも危ぶまれましたが何とか開始数分前にスタートラインに立てました・・・。そこから周りの皆さんと共にスタートダッシュ。ただここで全力を使っては意味ないのでできるだけ無理せずに、でもなるべくいい位置で採石場まで行こうと調整しつつ走りました。そうこうする内に砂利道の坂を越え、目の前に噂の刈寄山が!さあ登るぞ!と前を向いたところ、



 すでにこの渋滞・・・。でもここまで飛ばしてきて実は既に息が切れていた私の本音は堂々と休めてラッキー!でした。少し落ち着いてから後ろを振り返ると後ろも大変な状況に。↓


 ここはディズニーランドか!と思わず叫んでしまうほどでした(もちろん叫びませんでしたが)。結局ここでは20分ほど休憩させていただいたのはいいのですが、その間すっかり足の筋肉も冷えて、肝心のトレイルでエンジンがかかるのに時間がかかってしまいました。

 軽い山登りの後は長い下りのロード区間。ここは走りやすそうに見えるけどそれは罠だ!と何人かの方から聞かされていたのですが、もともとロードの下りが大好物だった私にとってそれは難しい注文だったようで、無茶走りはしなかったものの、それなりにいいスピードで走ってしまい、結果10人以上を抜くことができました。ただ、最終的にはその20倍近い人に抜かされることになるのですがそれは後の話・・・。 ちなみに第一関門は過ぎたことも気づかず関門時間だけ迫ってきてて焦っていたのですがどうやら無事通過できていたようでした。

 ロードが登りに変わってからは少し落ち着きを取り戻し、ペースを落として走るのですが登っても登っても全然登りが終わらない。緩やかな登りではあるのですが、延々と登り続けたこの区間、結構足にきてしまいました。


 第二関門近くの12キロ地点あたりにいた「カウントお兄さん」によるとその時の私の順位は「598位」。予定していた順位よりは結構上で驚きました。

 第二関門の篠窪峠仮設登山口に到着してからはトレイルに。正直ロードで結構無理したツケがここから出始めます。登ってもすぐ下りとなり、ちょっとだけフラットな所があったかと思うとすぐにまた登り、そして下りというアップダウンの繰り返しで徐々に残っていた足も、精神力もガシガシ削られることに。20キロの市道分岐過ぎてからトッキリ場→入山峠→今熊山頂上→金剛の滝上へと続く繰り返しのアップダウンでボロボロに。今熊山なんて永遠に到着しないかと思われるくらい果てしないネバーエンディングストーリーロードでした。


水、水、水・・・

後半、状況はさらにヤバい状況に、500ml x 2、計1L持ってきていた水が20キロを過ぎたあたりで完全に消失。これはやばかった。何が問題かというと、水がないとジェルも飲み込めないし、電解質タブレットも飲めない。そもそも事前調査で書いてあった「13キロ地点での水場」がどこのことなのか全く分からず補給できなかったのも計算違いの原因でした・・・。気温は午後あたりになってどんどんあがってきて、かつアップダウンの繰り返しで、喉は乾ききり、力も出なくなり、足も止まりがちに。ジェルだけはまだ3つ残っていたのに・・・。ジェルの持ち腐れとはまさにこのことか、と飲めないジェルを見つめつつ、でもあと10キロ切ってるんだから頑張ろう!と自分を励まし進むことに。

 こう頑張れた理由はいくつかあります。水が無いとは言えここは文明社会日本、しかもその首都東京。いくら山間部とは言え、自販機かトイレくらいあるだろう、と。その全てが甘かった。今回初めて、脱水症状でDNFという危機に本当に陥る一歩手前まで行ってしまいました。

 水補給に関しての私の甘い推測と現実↓

  • 13キロ地点での水場で給水だ!発見できず。
  • 今熊神社(残り約5キロ地点)には神社というだけあって、トイレは無くともせめて掃除用の水道水くらいはあるだろう。→無し。
  • 今熊神社がダメでもその後に「バス停」という標識があったし、バスが通るくらいだから自販機1つくらいあるだろう無し。

 全ての希望が打ち砕かれた後、遠くに見える文明社会=街がどれだけ眩しく見えたことか。後ろからスーパーランナーたちがワンサカ元気よく走ってきては「横通りますよ〜!」、「すいませんね〜」と気持よく通り過ぎていくのを、ネジが緩みきる直前のブリキ人形のごとく、フラフラと歩いていた私は声をかけることすらできずただただ後ろ姿を仰ぐしかできなかった。

 さらに追い打ちをかける災厄がその後私に降りかかってきました。後半2キロ手前くらいの急な下りでカメラマンさんがスタンバイしていたのでここはちょっとカッコつけよう、といっぱしのトレイルランナー気取りで駆け下りたところ、自分の頭の中ではさもキリアンのごとく軽やかにシャモニーの山を駆け下りているつもりが、体のほうが全然ついてきていなかったようで、着地に失敗してカメラマンさんの目の前で思いっきり右足首を捻って転倒・・・。しかも自分でもしっかりと「ゴキッ」というあまり聞こえたくない音が聞こえてしまったほど。カメラマンさんに「大丈夫ですか?」と心配されるというカッコ悪さ・・・。30秒ほど悶絶した後、落ち着いて骨に異常がないか確認したところ、骨は折れてなく、歩くことはできたのでとにかく歩いていけるところまでいこう、と何とか歩いてゴールを目指すことに。

 苦難の山道が終わり、五日市に戻ってきて、ゴールまで後1キロもないあたりで、ようやく公衆トイレを発見。もう1キロ切ってるから普通に考えればそのままゴールまで行ってしまうべきだとは分かっていたのですが、喉の渇きが限界を超えていたこともあり、数十メートル過ぎていたのをわざわざ戻り、蛇口を捻って水道水一気飲み!「水道水やべえ!美味しすぎる!」と声はさすがに出さなかったのですが心の奥から感動した瞬間でした。もしその時目の前に1杯1万円の赤ワインのグラスと0円の公衆トイレの水道水を並べられたとしても、何の躊躇もなく水道水を選んだことでしょう。とにかく人生史上ベスト5に入るくらい美味しい水を心ゆくまで味わい、かなり元気を取り戻すことができました。ほんと、水って大切。あと、1.5L以上持って山に入るという注意事項はしっかり守りましょう。

 スタート前にもエイドないレースは厳しいですよ、というお話は聞いていたものの、こんなに辛い結果になるとは。もし来年再度参加する際には3リットルは持っていこうと思いました。


ゴール、そして・・・



結局、「カウントお兄さん」の時には「598位」でしたがゴールした速報値では「727位」と、後半10キロの大失速の間に129人に抜かれたことに。それでも最初の目標だった、「1. 関門に引っかかない」、「2. 1000位以内に入ってハセツネCUPの挑戦権をゲットする」という目標は果たすことができました。タイムとしては4時間48分36秒と、自分的には遅いんだか速いんだか初めての参加なのでよく分かりませんでしたが、とにかくDNFせずボロボロではあったにせよ完走できたことで今回はよしとしたいと思います。

 ハセツネCUPに出るかどうか・・・それはこの辛い記憶が薄まってみないと何ともいえないのが正直なところです(笑)。



 こんな状況で果たして2週間後のUTMFを無事完走できるのか、自分としても大変不安になっていますが、ここまで来たら後は運を天に任せてやれるだけのことをやるしかないと腹をくくって当日を迎えようと思います。ハセツネCUPに出るかどうかはそれからゆっくり考えればいいや。







P.S. 捻挫した右足首ですが、ハセツネ後の夜にかなり腫れてきたので、今日病院に行ったところ、全治1ヶ月の絶対安静という診断・・・。剥離骨折していた可能性もあるということでした・・・。ギブスかサポーターをしなさいということで、迷いなくギブスを選びました。レースはしばらくお休みですね〜、とも言われたのですが、夢だったUTMF。残りの2週間治療に専念して、せめてスタートはできるように回復したいと思います。



      (病院からもらったサポーター。これから2週間、お世話になります。)

Tuesday, April 8, 2014

【後編】UTMF開催直前ワークショップレポート@THE NORTH FACE PRESS ROOM


前回のお話

前回はゴールドウイン三浦務さんによるUTMF開催直前ワークショップの前半部分をまとめました。内容は「選手の責任」と「自然保護に関するルール」「開催時期変更の理由、気温変化への対応」の部分です。詳しくはこちらからお読みください。

今回の内容

今回はいよいよワークショップの核心部分である「必携装備品」についての三浦さんの解説部分です。後半にはNorth Faceのスタッフの方で昨年のUTMFを90位あたりで完走されたエリートランナーと、46時間の制限時間ぎりぎりで完走されたいわゆる一般ランナーのお二人によるアドバイスや参加者とのQ&Aが行われました。その部分についても簡単ですがまとめてあります。

それでは三浦さんによる装備品の解説まとめ、はじめます。

9.装備について-必携品(装備といて必ず携行するもの)


 個別の説明に入る前にしっかり読んでもらいたいのは以下の注意書きです。

必携品ウェアの保温性、防水性などのレベルは、選手自身の責任で決定してください。事前にそれらを着用して氷点下気温の高山、大雨の中での長時間に及ぶランニングなどを体験し、それらのウェアが本当に自分のカラダを守ってくれるのか否かを知っておきましょう。選手自身が責任をもって認め、届け出たウェアを大会本部はその選手の必携ウェアと判断します。

 個別の必携品については以下の通りです。

1.コースマップ(大会公式サイトで公開される「詳細図」を必ずダウンロードしてください)。(※1)

※1 スマートフォンにダウンロードした詳細図は、バッテリー切れで見ることができない場合は『地図を持っていない』とみなされます、ご注意ください。

⇒昨年度は「全体図」でも可としていましたが、今年からは「全体図」ではなく「詳細図」を携帯にダウンロードもしくは印刷して持参ください。これは過去2年間でロストコースする人が多かったための対策です。

2.エントリーの際に番号を届け出た携帯電話。大会本部の電話番号(ナンバーカードに明記してあります)を登録し、番号非通知にせず十分に充電しておくこと。レース前、レース中に大会本部よりこの携帯電話に緊急連絡をすることがあります。 

3.携帯コップ(150cc以上)。エイドステーションに紙コップの用意はありません。

⇒特に説明なし。(ちなみに私が持っていく携帯コップはSea to Summit社のXMugです。)

 



4.1リットル以上の水(スタート時および各エイドステーション出発時)

⇒特に説明なし。(私はUltimate Directionの初代Scott Jurekモデルで行こうと思っています。先日試しにレインウェアや保温のための長袖シャツなどをいれたところそれだけでパンパンに・・・。もうちょっと荷物のダイエットさせないといけないかもです。)

5.食料

⇒ジェルでもパワーバー、チョコ、お饅頭など自分にあったものでOKです。計算上は各エイドステーションで用意されるものを食べ続ければカロリー計算上は完走できることになっている。ただし。山中では何が起こるかわからないので、トラブルに備えて行動食は必携です。

6.ライト2個、それぞれの予備電池。低温では電池の寿命が短くなります。

⇒特に説明なし。(私は先日の六甲縦走キャノンボールランでの痛い反省を踏まえ、高額なお買いものとなってしまいましたが、評判が高く明るさに定評のあるPetzl社のNaoヘッドランプを使用することにしました!あと、手持ちライトとしてGENTOS 閃 325も持っていきます。これでもう迷わない?! )
                (PetzlのNao。ヘッデン市場最強?!) (手持ちライト。明るさ150ルーメン!)

7.サバイバルブランケット(130cm以上×200cm以上)。

⇒この「130cm以上×200cm以上」という規格についてですが、一般的なアウトドアショップで販売しているサバイバルブランケットはほとんどこのサイズ以上のものばかりですので、サイズに関してはあまり気にしなくても大丈夫です。サバイバルブランケットは寝る時などの保温のために使用するだけではなく、走る時にも使えます。UTMBの時にはジャケットの下にサバイバルブランケットを着て走る選手を結構見かけました。特に夜、寒くなってどうしようもない時などにはこのことを思い出してください。
(私がアートスポーツさんで購入したサバイバルブランケットはハイマウントのサバイバルシートです。)

8.ホイッスル

⇒最近ではザックやパックに備え付けられているものも多いですが、その程度のホイッスルで充分です。

9.テーピング用テープ(80cm以上×3cm以上)(※2)
 ※2 骨折などケガの救急処置のためだけでなく、ザックの紐(ストラップ)など、装備が壊れたときの補修など、多くの用途にも使える強いテープ。


⇒この「80cm以上×3cm以上」はあくまで最低限の長さですので実際はもっと長いものを持ってきた方がいいです。(※2)にも書かれてある通り、ケガ等の救急処置だけでなく、装備が壊れた、破れた際の補修にも使えます。(アートスポーツさんにはNew-HaleのUTMF-STY対応テープも販売しており、荷物を最小限にしたい方にはおすすめです。とりあえずという方はこちらもご利用ください。私もこちらを購入しました。)


10.携帯トイレ(※3)
  ※3 使用した場合は次のエイドステーションで交換可能


⇒携帯トイレはレース当日に会場でも販売します。基本はエイドのトイレを使用することになりますが、いざという時のために1つ用意しておいてください。使用済みのものはエイドで新しい携帯トイレに交換します。静岡県側には私有地が多い関係もあり、もし万が一の場合は携帯トイレを使用してください。(私はコンパクトに運べるモンベル社のO.D. トイレキット を購入しました。)


11.保温のためのフリースなどの長袖シャツ。綿素材は認められません。(※4)

※4 保温のための上半身の衣料は=「暖かい空気の層」を作ることができる起毛したミッドウエアと称されるフリースやウール、薄手のダウンなどのことです。薄手のアンダーウェアは認められません。

 ⇒通常の長袖シャツではだめで、North Faceの製品で言いますとPowerDry Grid Jacket程度のいわゆるミッドウェアでなければなりません。(個人的なポイントですが、UTMFはレインウェア上下に加えてこの保温のための長袖シャツもザックに入れて運ばないといけないため、あまり厚手のものだとそれだけでスペースを取ってしまいますので保温性があってかつ軽いものを選んだほうがいいと思います。)

12.保温のための足首までを覆うズボンあるいはタイツ。または膝までを覆うタイツと膝までを覆うハイソックスの組み合わせ。いずれも綿素材は認められません。(※5)

 ※5 保温のための下半身衣料は=A.足首までを覆うズボンB.同じ足首までを覆うタイツC.丈の短いタイツとハイソックスのことです。

 ⇒基本は肌を外に出さないための対策です。Cの「丈の短いタイツ」とは膝下まである七分丈のタイツを指し、それとハイソックスを組み合わせると結局は足全体をタイツとソックスで覆うことになります。膝が隠れていることが一つのポイントです。タイツが一番無難な選択肢だと思います。いわゆる鏑木スタイルで身軽に走りたいという方もいらっしゃるとは思いますが、昨年優勝した原良和選手もロングタイツでしたし、100位以内を目指す!とかでなければ保温対策にもなりますのでタイツを使用するのがいいかと思います。

13.保温のための手袋、耳までを隠す帽子(※6)

 ※6 ウール、ポリエステル製ニットキャップなどのこと。キャップとヘッドバンド、またはジャケットのフード、筒状のバフは認められません。

 ⇒手袋はいいとして、帽子についてもここまで規定しているのは、たとえ吹雪になったとしてもレースを止めたくないという主催者の気持ちがあるからです。2010年のUTMBでは、大雨の影響で30km地点コンバルでレースが中止となりました。中止になって泣き崩れる鏑木選手、横山峰弘選手の姿をテレビを通じてご覧になった方も多いと思います。1年間かけて準備してきた選手を止めることなく走らせたい、そのために帽子についてもしっかりとしたものを用意してもらいたいと考えています。

14.雨天に備えてフードつきレインジャケットとレインパンツ。どちらも〈ゴアテックス〉あるいはそれと同等の防水、透湿機能を持ち、縫い目をシームテープで防水加工してあるもの。(11.12.との兼用はできません)


⇒重要なのは、「ジャケットやパンツの裏の縫い目をシームテープで防水加工してあるもの」という点です。この処理がされているかされていないかがボーダーラインです。ジャケットだけでなく、レインパンツも重要になります。雨が降ると予想された場合は、鏑木選手のような、薄手・軽量のもので勝負するのは避けたほうがよく、しっかりしたものを準備してください。防水だけではなく、保温にも使えます

15.ファーストエイドキット(絆創膏、消毒薬など)

⇒特に説明なし。市販のセットになっているものでもいいですし、必要なものを自分でジップロックなどにいれてコンパクトにまとめるやり方でもいいかと思います。

16.保険証(コピー不可)


17.配布されるナンバーカード、ICチップ(両足につけること)

⇒今年からの変更点ですが、ナンバーカードは折りたたまず、必ず上半身部分に見えるように貼り付けてください。昨年までは米国のトレラン大会でよくあるような、数字の部分だけを見えるように折りたたみ、パンツに安全ピンで付ける選手も多かったのですが、今年からは折りたたむことはNGです。その理由として、ICチップだけでなくスタッフがランナーのナンバーカードを見て記録を取るポイントが数か所あるため、チェックする人にとって見えやすくするということもありますし、もし万が一ケガなどをした際、救護本部の電話番号がナンバーカードには明記されているのですぐに電話することもできますし、選手の名前が明記されているため、選手が意識を失うような状況になった場合でも、ドクターが名前を呼ぶことで意識を取り戻しやすくなります。
 そういった緊急の場合だけではなく、名前が見えると応援してくれる人から名前を呼んでもらいやすくなり、元気をもらえます。
 シャツは着替えたり、上からジャケットを着ると見えなくなることもありますので、おすすめはナンバーをとめて着脱が容易なベルトです。(私はNathan社のRace Number Beltを使用する予定です。)



18.配布されるフラッシュライト(夜間走行の車輌から認識されやすいよう、ザックなどにつけること)

⇒エイドステーションの前後では市街地を通るところが何か所もありますので安全対策として必ずザックやキャップ、ライトの後ろなど車から見えるところに付けるようにしてください。


※必携品とは最低限の装備のことです。厳しいレース環境で、二昼夜(STYは一昼夜)走り続けることを認識し、自らの安全と健全な体調を確保するために、さらに必要と思われる装備を加えてください。(スタート時に半袖、短パンであってもかまいませんが、必ず必携品を携行してください。)

特に勧める携帯品 

コンパス、熊鈴(※)、着替え、日焼け止め、ワセリン、筆記用具、現金
※熊鈴は昼夜を問わず、近隣住民にとって非常に不愉快な騒音です。山岳区間以外では取り外すなど鳴らないように工夫してください。

熊鈴は近隣住民からの苦情が相次いだこともあり、必須装備品からは外しましたが、熊が出なくなったというわけではありません。熊に出会う可能性はゼロではありませんので、心配な方はやはり今年も熊鈴を携帯してください。ただし、市街地に来たら音を出さないようにしてください
(最近ではワンタッチで消音できる熊鈴も多くありますので、そちらをご活用ください。私はこのハイマウントの消音ケース付きのカウベルを持っていきます。)



10. ドロップバッグについて  

1.STYにはありません。
2.UTMFの選手は、レース途中の「A7 富士山こどもの国」で、スタート前に預けた荷物(ドロップバッグ)を受け取ることができます。
3.そこまでの区間で使い終わった用具などをドロップバッグに戻すこともできます。
4.レース終了後、ドロップバッグはフィニッシュの河口湖八木崎公園に運ばれます。

⇒UTMFに出場される方は是非積極的にドロップバックを活用してください。レースの中間地点である「A7 富士山こどもの国」でドロップバッグを受け取れますので、天気予報なども考慮に入れて、着替えや予備のシューズなど用意しておくとよいと思われます。自分で運ぶわけではないので必要と思われるものはある程度多くなっても預けてしまえばいいと思います。例として、最初は薄手のジャケットで走り、2晩目の寒くなるところでドロップバックに厚手のジャケットを追加するなどがあります。後半の天子山地を乗り切るためにドロップバックは重要なポイントになります。
 着替え終わったウェアなどもそこで預けられ、ゴール後受け取ることができます。

■上記1~18にあげられた必携装備品は必要最低限の装備ですので、必ず自分自身で足りないものを足すようにしてください。
 

プライベートサポートについて

サポートクルーの重要性はよく言われていますが、サポートクルーをつけることができる選手は是非つけてください。ただし、以下のエイドはサポートNGです。

サポートをつけることができないエイドステーション】

  •  A1  富士吉田
  •  A2  二十曲峠
  •  W1  粟倉
  •  A11 鳴沢

 

Q&A

 三浦さんの解説後、UTMFを完走した2名のNorth Faceスタッフの方も交え、参加者との質疑応答が行われました。

Q:関門時間についてですが、エイドには関門時間までにエイドに入っておけば関門はクリアしたとみなされますか?
A:残念ながら関門時間までに、そのエイドを出なければ関門クリアとはみなされません。今回は制限時間が48時間から46時間と2時間少なくなっている関係もあります。西富士中学校までは1回目のUTMFと同じコースですが西富士から先のコースが今回変更となっていて距離が伸びているので制限時間が厳しくなっています。また、「A5 富士山御殿場口太郎坊~A6水ヶ塚公園」間は富士山スカイラインは舗装道となっており、ここは早朝までに通る必要があります。4月26日(土)はゴールデンウィークの初日にあたり、レジャー施設もこの日からオープンするところも多く、観光客が押し寄せる前に通過する必要があります。
 コース的にも後半には天子山地が待っており、かなり厳しいコースであり、後半に使える時間を前半で稼ぐ必要もあり、関門が厳しくなっています。

Q:補給食についてアドバイスはありますか?
A:エイドステーションには米の補給食が少ないので、サポートを付けることができるのであれば米を持ってきてもらうのがおすすめです。おにぎりはエネルギーになるまで2時間近くかかりますが腹持ちもいいのでドロップバックにおにぎりをいれておくのもよいでしょう。
 鏑木選手は130キロを過ぎるとジェルが喉を通らなくなることが多く、フルーツなども試したのですが、最終的には「お粥」に落ち着きました。UTMBなど海外の大会ではアルファ米を持っていき、現地でお湯で戻して塩と醤油で味付けして食べさせていました。100マイルのレースでは後半モチベーションを維持するのが難しいので、「次のエイドに行けばお粥が食べられる!」というのが鏑木選手のモチベーションになっていました。

Q:トイレですが西富士中学校はシューズを脱ぐ必要があると聞いたのですが?
A:はい。基本はそのまま入れますが、西富士中学校は普段は学校であり、UTMFのために特別に場所を提供していただいていますのでシューズは脱いでご利用ください。

Q:グローブは薄手のものだと厳しいですか?
A:2晩目が厳しいので、ドロップバッグに厚手のグローブをいれておくといいと思います。


 以上になります。私含め特に初めてUTMFに挑戦する方の参考になれば・・・と思いまとめました。残り2週間ちょっとですが、体調管理、ケガには十分気をつけて過ごしていきましょう!とりあえず私は今週末のハセツネ30Kで張り切りすぎてケガしないように注意します・・・。

Monday, April 7, 2014

【前編】UTMF開催直前ワークショップレポート@THE NORTH FACE PRESS ROOM


はじめに

先日のアートスポーツさんで行われた鏑木毅さんによるUTMF/STY対策トークイベント(前編/後編)に続き、4月4日(金)の18時~19時半にThe North Face原宿店さんで行われた三浦務さんによる対策ワークショップに参加してきました。

 本ワークショップの開催通知に記載されていた概要は以下の通りです。

4月25日~27日に開催される距離168km、累積標高9,500m、「ULTRA TRAIL Mt.FUJI 距離88km、累積標高4,700m、「SHIZUOKA TO YAMANASHI」の ワークショップを開催いたします。大会の実行委員会事務局でもあるスタッフがコースや競技規則など、100マイルなど海外レースの経験豊富なショップスタッフがウェアリングやレース対策などの説明を行います。今年出場される方は大会直前の最終確認として、次回以降出場を考えている方は 参考に、是非お気軽にご参加ください。    
内 容 :UTMF/STY の競技規則・コース説明・レース対策etc… 

 開始時間が平日18時からとサラリーマンとしてはかなり厳しい時間でしたが、残業中の同僚の目を何とかかいくぐってオフィスから脱出し、原宿に向かうことができました。The North FaceのPress Roomで開催された今回のワークショップは私を入れて15名くらいの参加者がいました。ほとんどがUTMFに出場か、来年以降のチャレンジを考えている人で、STYに参加する人は2、3名ほどでした。

 今回のワークショップは、ゴールドウインの三浦務さんを講師として、主にUTMF2014の競技規則・注意事項について説明することが主な内容です。当日はUTMFウェブサイトに記載されている競技規則・注意事項」からの抜粋が配布され、それを見ながらの解説でした。以下、ワークショップの要点をまとめますが、上記UTMFの「競技規則・注意事項」を見ながらお読みいただければと思います。時間の関係上全ての項目をひとつずつについて説明があったわけではなく、重要なポイントのみ抜き出しての解説となっていました。

 前回の鏑木さんのトークイベント同様、一度に書くと長くなるので今回はワークショップの前半部分、「選手の責任」と「自然保護に関するルール」「開催時期変更の理由、気温変化への対応」についてまとめます!

1.選手の責任

事務局としては必携装備品よりもここが一番強調したいところです。トレイルランニングはまだ日本では新しいスポーツであり、参加する選手自身もまだどういったスポーツかを正確に理解できていないのが現状です。ここ数年の間で、ロードからトレイルランに入る人が多くなったこと自体は大歓迎なのですが、トレイルランは登山と同じアウトドアスポーツであり、自分の責任で走る・参加することが重要です。これが自覚できていれば、究極的には装備のレギュレーションを事務局が設定しなくても問題はなくなると思います。

 「1.選手の責任」の中には5項目記載がされていますが、特にしっかりと理解してもらいたいのは以下の2項目です。内容としては上述したことと重なります。

  2.この種のレースで起こりうる問題に対して、自ら対処できる能力を有し、自己責任であることを十分理解していること。 
  3.山岳地で予測されるトラブルや天候の悪化など(低温、強風、雨や雪)に、他に頼ることなく自ら対処できること。

2.自然保護に関するルール 

ここには8つのルールが書かれていますが、特に気をつけないといけないのは以下の点です。
  1.ストックの使用をUTMF、STYとも全コースにおいて禁止します。
これは昨年の大会実施後、環境省の調査で、ストック使用禁止エリアでもストックの使用跡が何か所も発見され、指摘を受けたということもありますし、何より富士山が世界遺産に登録され、その環境を守るための変更です。
 

(番外)開催時期変更の理由、気温変化への対応


 1回目の大会は5月18日(金)~20日(日)で行われましたが、その後、日本野鳥の会からその時期は野鳥の繁殖期にあたっており、大会の結果少なからず繁殖に影響が出たということで、できれば5月、6月を避けてほしいという要請がありました。そのため、2013年の第2回大会から約1か月前倒しして4月下旬に大会を開催することになりました。今回は1回目とほぼ同じコースですが、開催時期が早まったため、第1回目の大会よりも寒くなっていることに注意してください。特に夜は場所によっては氷点下となります

 気温の変化については、以下のUTMFのコース数か所の4月の気象データ(気象庁気象統計情報より)をご覧いただくとよく分かると思います。

<大会開催日の平年値(過去30年間の平均)>
富士市(標高66m)
最高気温 20.8℃ 最低気温 11.1℃
山中湖(標高984m)
最高気温 16.4℃ 最低気温 2.8℃

<2013年大会時>
富士市(標高66m)
最高気温 4/26 午後2時 23.2℃ 最低気温 4/27 午前4時 8.2℃

雪見岳(標高1605m)
(天子山地)
推定最低気温 4/27 午前4時 -1℃
山中湖(標高984m)
最高気温 4/26 正午 18.5℃ 最低気温 4/27 午前1時 1.5℃
杓子山(標高1597m)
推定最低気温 4/27 午前1時-2.2℃

※2013年UTMF完走者724人、200位以降の選手が杓子山を夜間通過STYは全員夜間通過

 昨年の大会では最も標高が高い杓子山(A1~A2)で岩場が凍結していた。上記の気温の変化を見てもらうとわかる通り、UTMFの特徴は、1日の間に初夏と真冬がいっぺんに来るということ

 UTMF・STY共に1日で一番暖かい時間にスタートするので、軽装でもいけるように感じてしまうが、その後どんどん寒くなり辛くなります。UTMFでは、寒さという点では、1日目の夜はさほど問題なく越えられますが、問題は2晩目です。かなり厳しい夜になると思っていてください。上位200番目くらいのランナーであれば約36時間でゴールすることになりますので、土曜の朝3時~4時にフィニッシュすることになりますが、それ以降のランナーは2晩目も夜通し走ることになります。ほとんどのランナーは2晩目は歩いている時間が多くなり、また、立ち止まることも増えます。気温がどんどん下がる中、しっかりとした防寒具を用意して寒さ対策をしておかないと、低体温症などにかかってしまい大変危険な状況になってしまいます。サポートクルーがいない方の場合は、「A5 富士山こどもの国」のドロップバッグに2晩目のための防寒具を預けるのも良いと思います。繰り返しになりますが、「UTMFは後半の夜(2晩目)が厳しい!」ということを肝に銘じて準備してくださいね、ということでした。

 以上、必携装備品解説前までの三浦さんのアドバイスでした。

 次回について

次回は今回のワークショップのメインとも言える「9. 装備について-必携品(装備として必ず携行するもの)」についての解説部分です。特に新しい情報があるというわけではありませんが、UTMF開催直前の今、必携装備品について三浦さんの解説とともに最終確認できればと思います。

それでは!

Tuesday, April 1, 2014

【Race Report】六甲縦走キャノンボールラン完敗記録



 日本帰国後、最初にして最大の(?)難関、六甲縦走キャノンボールランに先週末挑戦してきました。米国での数年間のランニング経験を引っさげて日本のトレラン界に殴りこみだ!と息巻いていたのですが、結果は惨敗でした・・・。正直、六甲縦走舐めていました。本当に申し訳ございませんでした。
 昨年夏挑戦したオレゴンでのWaldo 100Kでも累積標高差は約3,350mだったし、あと1ヶ月後に走るUTMFは約9,500mだし、累積標高差が約2,800mの六甲縦走なんてハイキングレベルでしょ?と、高を括っていた一週間前の自分にもし今会えるならグーでパンチしてやりたい、そんな気持ちです。
 つまり、何が言いたいのかというと、往復112キロのPOWERの部で申し込んでいた今回のキャノンボールですが、往路の折り返し地点の宝塚で完全にエンジンストップしてしまい、人生初のDNF、所謂リタイアで終わってしまいました(距離的に言うとSPEEDの部を走ったことになります)。宝塚から復路52キロ六甲連山を再び逆走して須磨浦公園まで戻る気力がどうしても湧かず、宝塚から須磨浦公園に向けて出発するランナーを見送ってから心も体もウェアもびしょ濡れ、泥だらけの中、宝塚音楽学校の将来のタカラジェンヌたちがなぜか整列している中、とぼとぼと電車で実家まで帰宅いたしました。そうです。今回私は完敗しました

以下、完敗に至った私の言い訳が続きます。

【言い訳その1.天気のせい】
まず、POWERの部開始の土曜日の降水確率を御覧ください。もうどこをどう転んでも雨から逃げることは不可能な降水確率100%。この時までは、UTMFの対策トークイベントでも鏑木さんも、「今年はそろそろ雨降るんじゃないかと思っているので雨対策はしっかりしてくださいね。」、とおっしゃっていたので、まあ雨の中のトレランを試せるいい機会か、と気軽に考えていました。もちろん、これが普通の雨程度であればそうだったのかもしれません。




 そう。普通の雨であれば・・・。ただし土曜の夜〜日曜午前中にかけての雨は、そんなもんじゃなかったのです(↓)。




 結果、警報が出るほどの大雨に。どんな状況かは写真を見ていただくとお分かりになるかと思います(↓)。普通に考えると避難必至の大雨です・・・。
 

 上の写真は2日目の日曜午前中の写真で、私はこの時、折り返し地点の宝塚で生ける屍となっていましたので、実際にはこの現場にはいませんでしたことを申し伝えておきます(写真はmayasan.jpさんからの提供です。ありがとうございます!)。
 レーススタート前から降りだした雨は、21時のレース開始には雨足も強くなってきました。ただこの程度であれば何とかなるか・・・とその時は誰もがそう考える程度のレベルではありました。


 ただし、馬の背に到着するあたりには大雨になり、かつ視界が1m先も見えない霧も出てきて、さらに暴風が吹きすさび始めるという、普通に考えるとレースとかしてる場合じゃない、というか、山に入ってはいけないレベルの天候に。丸山市街地のバス停でバスを待っていたおばちゃんたちですら、大雨の中、山に向かって走り続ける私たちを見て、こんな中、山に行くなんて危険過ぎるからやめたほうがいいと言っていた意味がそのすぐ後によくわかりました。ただ隣のランナーがおばちゃんに「いやいや、雨が降ってなくても十分危険だから(笑)」と笑って返していたのも、この後の壮絶なレース展開をいやがおうでも予感させてくれるには十分でした。。。

 雨が降り続くうちに、徐々に山道にも泥状態から水たまり状態に。最初は水たまりとかを避けて走っていたのですが、後半は水たまり以外に走れるところがないというすさまじい状況に。降りではそこ、ここで滝が発生する中、泥水の流れと共に濁流下りをしながら滑り落ちるという、生命の危機を感じながらのレースとなりました。そのような中でも恐れること無く駆け下りていく関西のランナーの皆さまの技術力というか怖い物知らずさには心から敬意を感じずにはいられませんでした。いや、本当に。

【言い訳その2.夜中走るレースを走ったことがなかったせい】
 今まで米国のトレランレースでは100キロまでのレースしか出ていないこともあったのですが、一晩かけて走ったことは経験がありませんでした。Waldo 100Kでも開始は午前5時。最初は暗くてもすぐに夜明けがやってきて、本格的に夜になる前にはゴールできますので、レースといえば基本、日中走るものばかりでした。今回米国のレースでもいつも使っていたPetzlの安物のヘッドランプを使ったのですが明らかに六甲の暗闇に立ち向かうには明るさが足りない。霧で視界がほとんどなかったということもあるのかと思いますが、とにかく見えない。そのため、何度も水たまりを避ける時に崖から足を踏み外しそうになる事態に。眠気には襲われなかったのですが、とにかく見えないのが恐怖でした。電池の替えも持ってきてなかったので電池切れの恐怖とも戦いながらのレースとなり、走るというよりも一歩一歩足元を確かめながら歩く展開に。明け方になって周りがうっすらと白く見えてきた嬉しさは今でも忘れられません。

【言い訳その3.コースマーカーが無いレースは初めてなせい】
 六甲縦走は六甲連山という大小様々な15の山と市街地も走るバラエティ豊かなコース。またアメリカの話で恐縮ですが、あちらの場合はどんな小規模なレースでも、レースの際には必ずコースマークが数百フィートごとに木の枝に付いているか、地面に突き刺さっていました。夜でも見えるようにリフレクションが付いていたり。コースマーカーのおかげで初めて走るコースでもほとんど迷うことなく走りに集中することができました。今回のキャノンボールはそういったものは一切なく、あったのは神戸市が立てている「六甲全山縦走路」の標識のみ。それも今回のような雨と霧で視界ゼロな状況かつ夜中だと気をつけなければ簡単に見過ごしてしまうほどのもので、当たり前ですがリフレクションも無いので暗闇ではそこに標識があることにすら気づきません。
 六甲連山バージンな私は一応地図でコースは確認していたのですが、このコンディションの中、自分が今どこを走っているのか把握するのはかなり難しかったです。途中まで一緒に走ってくれた神戸在住の友人のおかげで一緒に走っている間はロストすることもなく走れました。ただ、単独走となった夜中1時過ぎに、鍋蓋山の付近で完全に標識を見失い、ロストしてしまいました。ただロストの怖いところが、自分が間違ったコースを走っていることに気づかない点です。自分としては正しいトレイルを走っているつもりだったのですが、どこまで行っても先を走るランナーに出会わない。後ろを振り返ってもそこには永遠の漆黒があるだけ。前後左右、自分以外全部闇という恐ろしい状況に。ただそうは言っても、いつかは人に出会えるだろうと30分ほど進んでいったところ、「七三峠」、という標識が見えました。通常の思考能力であればせっかく場所が分かったのだからそこで一度立ち止まって落ち着いて地図で現在地を確認、となるのですが暴風雨の漆黒の闇に囲まれた深夜に1人という状況だった私はとにかく誰かに会いたいという一心で前に進むことを優先してしまいました。六甲山に詳しい人なら「七三峠」の標識を見た時に誤りに気づくのだと思いますが、私はそのまま突き進み続けました。ほどなく進むと、遠くにヘッドランプの明かりが。近づいていくと、途方にくれてぼーっと佇んでいる一人の男性ランナーがトレイルの脇に立っていました。

 「なんかこっちに来たのはいいんやけど、どうも道間違えたみたいなんや・・・。どこまで行っても誰もおれへんし、いきなり動物みたいなんが飛び出してくるし、怖なって急いでここまで戻って来たんや・・・」

 と、かなり憔悴しきった感じ。私も自分が間違っていたこと自体、気づいてなかったので2人でしばしどうするか作戦会議。というかこの人遭難した幽霊で俺をこのまま山奥に連れていこうとしているんじゃないだろうか・・・という失礼すぎる考えすら頭をよぎったのですが、とりあえず一緒にロストコースした起点だと推測される鍋蓋山まで戻ろうということになり、私が先頭に立って走ることに。これで後ろ振り返ってこの人いなくなってたら俺のキャノンボールはそこで終了だな。と思ったりしたのですが、むしろ積極的に身の上話とかしてくれて本当にいい人でした。鍋蓋山まで戻ったら正しい分岐点を発見!そこでようやく前後のランナーの皆さんのヘッドランプの明かりが見え、二人して心底ほっとして正しいコースに戻りました。おっちゃんは、

 「昼間は何回も走りに来てるんやけど、夜に走ると全くわからんな。それもこんな雨と霧の中やし。なんで印とか付けてへんねん。そりゃ迷うやろ・・・。お兄ちゃんも頑張りな。」

 と言い残して颯爽と暗闇に消えていきました。やはり夜中にコースマーカー無しのレースに出るのあれば、かなりコースを熟知して頭に分岐点を叩き込んでおくか、そのコースを良く知っている友人にぴったりくっついて行くしかないということをあらためて思い知りました。(できれば次回からは私がボランティアしてもいいから山道だけはコースマーカーつけてほしいな、キャノンボールさん・・・。)
 
【言い訳その4.日本の山の特徴を知らなさすぎたせい】
 六甲連山だけじゃなく、日本の山は急勾配で岩が多く、なかなか走れないという特徴を私が理解していなかったのも問題でした。横浜の港南台〜鎌倉までのトレイルは練習として今まで何度か走ったのですが、そこのトレイルは米国東部の走りやすいトレイルに似ていたのもあり、日本の山の本当の怖さを知らず、安心していたこともありました。それが今回レーススタート直後から連続して続く急勾配の登り降りや、手を使わないと登り下りできない岩場の連続で一気にサバイバルモードに突入させられました。Waldo 100Kが、さも世界最高レベルの難レースだなんて思っていた過去の自分をまたおもいっきりビンタしたくなるような、そんな気持ちになりました。少なくともキャノンボールはトレランではなく、山岳ランと名前を変えるべきです(笑)。本当にビクビクしながら登り降りしている自分の横を、周りのランナーたちはを忍者のようにヒョイヒョイと駆け抜けて行っており、圧倒的なレベルの違いを感じざるをえませんでした。こんなレベルの私が書いているトレランブログなんて抹消してしまったほうがいいのではと思うくらい恥ずかしくなるくらいでした・・・。
 自分としては登りというよりも下り方をもっと習得する必要があるとひしひしと感じました。なんで岩場でかつ大雨で滑りまくり泥まみれな急な下りを迷うこと無く下りていけるのか、本当に一晩中不思議でなりませんでした。どなたかコツがあるのであれば是非こっそり教えてください。

【言い訳その5.雨、寒さ、泥道対策が足りてなかったせい】
 今回通常のトレラン、ウルトラなどの大会にあるようなドロップバッグが無い中、どのように準備すべきか、ちゃんと理解できていませんでした。まず第一の敗因は東京で購入していたジェル一式を全部東京に忘れて来てしまったということです。急遽妻が出発前に買ってくれていたトレイルミックスが主要なエネルギー源に。大雨の中、着替えを背負ったとしてもすぐにびしょ濡れになるし、ゴアテックスの防水ウェアを着ても降り続く雨の中では結局びしょ濡れになるということがよく分かりました。このような雨のレースでこそ、ウェアやシューズの替えを持ってきてくれるサポートクルーがいれば・・・と何度も願いましたが、もちろんいるはずもなく、ただ雨風で濡れていくウェア、シューズによってどんどんと体温は奪われていき、気を抜くと寒さで動けなくなる状態にまでなってしまいました。
 また、今回はHOKA One OneのStinson Evoで勝負したのですが、今回のようなMuddyかつ岩場がつるつる滑るコンディションでは圧倒的にグリップ力が足りず、厳しかったです。今回のようなレースではSalomonのSpeed Cross 3くらいのグリップ力があるシューズのほうが良かったと思いました。HOKAは今回本当につるっつる滑って危険でした・・・。
 今回の経験のおかげで、UTMFでは装備を一新して望まないといけないということに気づけたのが不幸中の(?)幸いだと言えるでしょう。

・・・と色々と言い訳はあるのですが、終わってみれば不完全燃焼ですがとても良い経験でした。キャノンボールランは草レースの良さが散りばめられている大会ですが、私の米国で出た草レースとの比較でさらに良くなる点もいくつかあるのではと感じました。

 その一つが、運営方針に対してです。草レースだから、ということで公式のサポート、サービスが無いこと、全ては自己責任で、という方針にグッとくる人も多いのですが(私もその1人です)、すでにこれだけの規模になった今、本当にこそれでいいのだろうか、と考えてみてもいいのかなと思います。無許可、自己責任で行う遊び心が無くなればそれはキャノンボールではなくなってしまうと思いますが、既に数百人が参加するまでに成長してしまった段階で、神戸市などの公的機関からの公認、許可は望めなくても、せめてボランティアを募ってコースマーカーは最低限分岐点ではつける、交通の便がいい所だけ1、2箇所でもいいのでエイドを設置する、折り返しの宝塚(今回の場合)でのドロップバックを許可する、などです。遊び心と自由さを保ったまま、安全性を高める努力もできるはずずです。そのために例えば参加費が2000円~3000円上がったとしても私としてはいいのではないかなと思いますがいかがでしょうか?

 とまあキャノンボールにハマってしまったために、自分が身内=運営側だったら・・と考え始めると色々と案が出てきますが、今回のレース中最も印象に残ったのは豪雨でも風でも寒さでも、一歩足を踏み外すとジ・エンドなコースでもありません。今回そのような豪雨、極寒の中、何度も何度も心が折れ続け、折れる心がもう無いんじゃないかというところで救ってくれた、私設エイドでサポートしてくれたボランティアの皆さんです。冷え切った体に温かいスープやお味噌汁、ウィンナー、ホットココア、うまい棒(!)は本当に、本当に助かりました。今回宝塚までの片道ですらおそらく私設エイドの方の存在がなければ厳しかったと思います。


(最初の私設エイド。うまい棒とポカリに助けられました。)



(摩耶山後、真夜中、暴風雨の中ボロボロになったところで現れた天使。ウインナーとホットココア、最高でした。)

(その天使↑)

 今回走ってみていかに自分に山登りのための筋力が不足しているかを痛感することができました。長く走ることはできる足であっても日本の山のような急峻なアップダウンには耐えられない貧弱な筋力しかないと痛感しました。これがUTMF本番でなくて本当によかった。残り時間は少ないけど、最後の調整レースであるハセツネ30Kまでに回復して再度自分の足を試したいと思います。

 今まで4回ほどキャノンボールを完走した友人をして「史上最狂」と言わしめた今回のアドベンチャー(?)レース。今後の自分にとって糧となることを期待してまた明日から頑張りたいと思います。そして近い将来、必ずリベンジしに六甲に戻ります!
待ってろよ、キャノンボール!