Thursday, November 21, 2013

【Race Report】2013 Stone Mill 50 Mile




Stone Mill 50から見える米国の手作りトレイルランレースの魅力

Stone Mill 50 Mileはメリーランド州のMontgomery Countyで2010年から始まったトレイルランレースです。私は昨年の2012年に初参加し、今年が2回目です。思い返せば昨年のこの大会が私にとって人生初の50マイルレースでした。正直トレイルの走り方すらよくわかっていない状況の中、後半ボロボロになってまさに這うようにしてゴールした、そんな思い出深いレースです。

今年で3回目と歴史が浅いレースですが地元の老舗ランニングクラブである「Montgomery County Road Runners Club 」が運営。手作り感溢れる中、細かいところにはちゃんと手が届いています。参加費もこのご時世では破格の35ドル!その代わりゴールしてもメダルもないし、Tシャツなどももらえず、走ったことの証明としては汗とドロと埃まみれのBibが手元に残るだけ。米国のトレイルランニングのいいところは地元のクラブなどが手作りで作る50マイルや100Kレースなどがまだ結構あるということです。以前にもブログで書きましたが、そんな気楽さや地元のランニングコミュニティのネットワークが米国でのトレイルランやウルトラランニングがブームで終わらず何十年も根付いている一つの理由なのかもしれません。

レース当日

2013年11月16日(土)のレース当日。前日は仕事の関係などで準備が遅れて実質3時間しか寝られなかったんですが何とか3時に起床。おにぎりとスープで早すぎる朝食(夜食?)を家族を起こさないようにしながら取りました。自宅からスタート/フィニッシュ地点であるWatkins Mill High Schoolまでは車で約50分。まだ真っ暗の明け方4時に家を出て5時前には会場に到着。チェックインとBib受け取りを済ませた後、また車に戻ってエネルギー補給とレース用の着替えをして時間を潰しました。5時半頃1つだけ開いている学校のグラウンド脇のトイレに行くと大行列。特に個室が1つしかないため大変でした。でもそこは米国人。焦ることなくレースのことやシューズのことを列の前後の人たちと楽しそうに話しながら待てるその余裕さが羨ましい限り。そんなこんなで準備しているうちにスタート時間の6時が近づいてきました。まだ周りは暗い中、ヘッドランプをつけた349名のトレイルランナー達がぞろぞろと校舎脇のスタート地点に集まり、全員でカウントダウン。そしてレースディレクターのDoug Sullivanの合図で6時ちょうどに全員が走りだしました。今年は昨年の極寒とは打って変わって暑くもなく寒すぎるわけでもない16、7℃の程よい気温だったのと、終日曇だったこともあり、昼間でも気温が上がることはなく、レースのコンディションとしてはある程度理想的でした。ただ前夜に雨が降ったため、トレイルのコンディションとしてはところどころ水たまりがあったりMuddyな感じでしたがコース途中で何回か小川を越える必要があり結局は濡れることになりますので途中からはあまり気になりませんでした。

レースギア

トレランレースのスタイルというのが自分なりにかなり確立されてきており、最近では大きく装備品を変えることはなくなりました。Waldo100Kとほぼ同じ装備ですが以下がリストです。

シューズHoka One One Stinson Evo
ハイドレーションベストUltimate Direction SJ Ultra Vest
ジャケット:Brooks
パンツSalomon Men's EXO S-Lab Twinskin Shorts
バイザー:Mile 29まではRock'n Roll Marathonで買ったもの、Mile 29以降の後半はWaldo100Kで完 走後の記念品としてもらえたものを使用しました。
グローブ:Nikeの昔買った薄手のものでかなり使い込んでボロボロになっていますが、極寒でないレースでは重宝しています。
ドロップバックVictory Sportdesign 「BEARⅡ」(Mile 29)、NYCマラソンのフィニッシャーズバック(Mile 43)
補給食Honey StingerS!Caps(電解質補給タブレット)

補給について

Stone Mill 50では2箇所ドロップバックが置けるエイドステーションがあります。1カ所目はMile 29(約47キロ)のStone Mill Aid Stationでジェル+S! Capと共に米国でのリポDと言われている「5-Hour Energy」を投入しました。これが絶大な効果を発揮してくれて一気に回復した気がします。2箇所目のMile 43(約69キロ)のRiffleford Aid Stationでも5-our Energyを注入しブーストしました。あと、日本人の補給食の定番と言えばおにぎり!おにぎりは2箇所あるドロップバックポイントでそれぞれ1個ずつ食べました。すぐには効かないですが後々効いてくるので長距離ランには欠かせません。

レースでは約5マイル(約8キロ)ごとにエイドステーションがあるので毎回立ち寄る度に2本あるボトルのうち、1本にはお水、2本目にはゲータレードをいれてもらいました。またコーラかマウンテンデューの炭酸ドリンクとテーブルにあればジェル、S!Capも1つずつ取り、余裕があればクッキーなどの固形食も取るようにしました。ボランティアの人たちが簡易ラーメンや特製スープを出してくれるエイドステーションもあり、後半本当に助かりました。また、レース中は1時間毎に必ずジェルとS!Capを取ることを心がけていました。水分補給では登りで歩く時に必ずゲータレードと水をそれぞれ一口ずつ飲むようにし、脱水症状にならないように心がけました。6月に走ったNorth Face 50では暑さもあって水分補給していても後半脱水症状に陥りキツかった反省から喉が乾いていなくても必ず20分ごとに水分は取るようにしていました。

 

レース展開

レースでは昨年の反省から上りでは前半元気でも無理をせず足を残すことを最優先に慎重に走りました。登りではなるべく歩き、平坦な箇所になってから走るということを繰り返しました。鏑木毅さんのUTMBでの走りから学んだ、登りでは無理せず、ただし登りの途中に2、3歩でも走れる箇所があれば必ず走るということも足を最後までもたせるだけでなくてタイムを縮めるのにも地味に役立ったと思います。

全体として昨年はあんなにキツイと思ったコースが今年はかなりフラットに感じたのは間違いなく夏のWaldo 100Kの地獄の山登り×3回を乗り越えたからです。キツかったけどWaldo100Kに出ていて本当に良かった。今回50マイルの道のりをほぼ1マイル11分~12分の間のイーブンペースで走れたのはWaldo 100Kの経験もそうですがこの1年間ほぼ毎月のように色んなレースに出てきた成果が現れたのかなとも感じました。48マイル地点からのゴールまで昨年は登りの連続に悩まされたのですが今年はそこでも走りつづけることができ、最終的に昨年は日が落ちてからのゴールでしたが今年はまだ明るいうちにフィニッシュできました。タイムも9時間38分と、昨年の11時間17分から約90分も短くできました。10時間台でのゴールをまずは目指していたのでかなり嬉しかったです。


 

50マイルトレイルランを完走するための私なりの5つのルール

素人トレイルランナーの私ですが何度か50K、50マイルレース+100Kレースを走ってきたおかげで自分なりの必勝法が見えてきた気がします。お読みいただいている方に少しでもお役にたてばと思い以下にまとめてみました。

1.前半では絶対無理しない!でもなるべく止まらない!
多くのランナーは最初元気なうちに登りもグイグイ走ったり、前のランナーをバンバン抜いたりしますが、焦ってその流れに乗る必要はありません。前半に抜かれても30マイル以降で抜き返すことができますので気にせず先に行ってもらうのが良いです。毎回私も前半飛ばしがちになるのですが今回は我慢の走りを貫くことができました。上述しましたが、「登りでは焦らず歩く!でも少しでもフラットな場所があったら数歩でもいいので走る!下りは歩幅を狭めて慎重に!」これが50マイル以上の長距離トレイルレースを完走するための私なりのコツです。

エイドステーションで長居する人もいますがあまり長くいるとダラダラしてしまったり精神的に切れてしまうことがあるため、よっぽど疲れていてこれ以上は進めないというその時が来るまでエイドステーションでは腰を下ろさずなるべく立ったまま必要な補給だけをしてまた走りだしたほうがいいとは思います。私も今回は1箇所目のドロップバックで着替える時だけしゃがみましたがそれ以外はイスにも座らず最後までいけました。

2.足だけで走らない!
大事なことなので何度も言いますが(笑)、短距離のレースとは違い50マイルなどの長距離トレイルレースは後半にどれだけ足を残せるかが全てです。足を残すためには足だけで走らないということが重要です。これはなかなか教えられてすぐできるというものではないのですが意識して腹筋や背筋含めたコア、丹田などを意識して走ることができるようになると足への負荷を減らして走ることができます。着地は踵でもミッド・フォア走法でも自分にあった走法でいいと思いますが、全身を使って無理なく、軽く、楽に走る走り方を身につけることが重要です。「楽に、軽く」というのは『Born to Run』の中でカバーヨ・ブランコがトレイルを走るコツとしても言っていますがまさにそれが基本中の基本ですね。

3.痛みは必ず消える時が来る!
これも50マイルレースなどの長距離を走った人ならわかると思うのですが、最後までどこも痛くならずゴールに行けることってほとんどありません。途中から太ももが攣りそうになったり、膝に痛みが出たりすることは私の場合ほぼ毎回起こります。ただそこで終わった・・・と諦めるのではなく、全身を使って足のみに負荷をかけずに慎重に走り続けることであるポイントで痛みが消えることはよくあります。伝説的なウルトラランナーであるAnn Trasonさんレベルになると、ある程度痛みがひどくなると逆にそれ以上の痛くなることはない!("It hurts up to a point and then it doesn't get any worse.")、と達観していますが(笑)、これもある程度は本当です。Waldo100Kの時には両足膝が80キロを超えたあたりで限界を迎えたのですが、面白いことに右膝が痛い時は左膝の痛みが和らぎ、逆に左膝の痛みがきつくなると右膝の痛みが弱くなるなど、全身が協力して前進させてくれているような不思議な体験をしました。もちろん痛いことは痛いのですが痛みの限界を迎えるとその痛みに慣れることができ、その痛みと共に走り続けることができました。ですので痛くなったからといって簡単に諦めるのではなく、様子を見つつ時には痛みを楽しみつつ走ることも50マイル以上のレースを完走するのには重要なポイントです(もちろん練習の時に痛くなったら走ってはいけません(笑))。

4.好きな音楽で後半ブーストをかける!
私は普段のトレーニングではよくiPhoneで音楽を聴きながら走っているのですが、レースではほとんど聴くことはありません。特にトレイルレースではシングルトラックで道が狭い中走るので周りの音や、特に後ろから来るランナーの足音が聞こえないと危ないからです。ただし今回はMile 29の1回目のドロップバックがあるエイドステーションから好きな音楽をiPhoneで聴きながら走ってみました。Waldo 100Kの時、後半精神的に結構キテしまって音楽でもあったらまた違っただろうなと感じたことも要因ですが、Hal KoernerさんやTimothy OlsenさんもWestern States 100などのレースでは音楽聴きながら走っていたのでまあOKなのかなという気持ちもありました。もちろん大音量で聴くことはせず、周りの音も聞こえる程度のボリュームにしました。最初からではなく途中から聴き始めた理由として精神面でのテコ入れという意味もありますが、29マイルあたりまで来るとランナー間の距離もかなり広がっていてトレイルが混雑することがないということもありました。それでも時々後ろの状況を確認することはしましたが。

音楽の効果は絶大で、中盤を過ぎて精神的にも疲れ始めていたのが嘘のように元気になり、しかも曲によっては走るのにちょうど良いBPMの曲もあり、先ほどまでの疲れがどこにいったのかというくらい走れたのは驚きでした。メリーランドの山奥で東京事変やウルフルズ、サンボマスターを絶叫しながら走るランナーは長い歴史の中でも自分が初めてだったんじゃないかな?(笑)

5.辛くなったら頭の中でマントラを唱える!
音楽とともに私の足を前に進ませてくれたのはマラソンマントラ(おまじない)、つまり自分を叱咤激励する言葉たちでした。マントラについてはRunner's Worldにも記載されています。私の場合、スコット・ジュレクさんの「This is what you came for.(このためにお前はここに来たんだろう?)」や、上述したカバーヨ・ブランコの「軽く、楽に走れ。」や、2011年のUTMBで鏑木毅さんが言っていた「鏑木毅たれ。」や、2012年UTMFでの横山 峰弘さんの「まだ続けられる。このレースの後、まだ先がある。」や、山本健一さんの「人はコントロールできないけど自分はコントロールできる。」「人ってすごい力を持っているね。人の足でこんな所まで来れるんだ。」などの、時には走りにはあんまり関係ない言葉であっても(笑)辛い時に頭の中に自然と浮かんできて、一歩、また一歩と先に進ませてくれました。

あと、もちろん家で待ってくれている家族の顔も浮かんで頑張らせてくれたのは言うまでもありません(笑)。




 

最後に

 Stone Mill 50 Mileの最後は急坂を一気に登らせてゴールという鬼コースなのですが、↓
  (写真だとわかりづらいですが鬼坂です。)

その時もそしてそこにいたるまでの最後の数マイルを走っている間、これが米国で走る最後のトレイルレースだという現実が疲れきった身体と頭に突き刺さってきて、急に5年間の色々な思い出、トレイルレースで知りあった多くの友人や素晴らしいラン仲間たちのことが浮かんできました。これで終わりという寂しさや色んな感情が混ざって1人泣きそうになってしまいました(笑)。そして、最後の坂を全力で駆け上がり、自分にトレイルランを教えてくれたこの米国での最後のレースを無事終えることができました。最初にも書きましたがStone Mill 50ではゴールしてもメダルもシャツも記念品も何ももらえません。ただしそこには待っててくれたレースディレクターやボランティア、他の選手の家族、既に走り終わった選手の心からの暖かい笑顔と拍手がありました。この笑顔、走る仲間への惜しみないやさしさこそが私が米国のトレイルコミュニティで学んだ最も大切なことだと思います。 ゴール後一気に体も冷えてくるのですぐに帰ればいいものの、なぜか1人でゴール付近から動けず、暗くなり始めるまでの1時間くらい、後続のランナーたちの様々な思い、表情で迎えるゴールを私は笑顔で、時には声を出して手を叩いて頑張れ、頑張れと応援し続けていました。
これで私の米国でのトレイルランの旅はひとまず終わりになります。この5年間、自分はランナーとしてというよりも米国のトレイルを走ることで人間的に成長させてもらったように思います。日本に戻っても、ここで学んだことを忘れないように、そして少しでも多くのトレイルランナーの皆さん米国でのトレイルランの魅力を伝えていければいいなと思っています。


とはいえ自分はランナーとしてはまだまだ進化途中。これからも時間的に距離的にも記録更新できるように日本に帰っても引き続き頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします!

【Stone Mill 50 Mile結果】
日時:2013年11月16日(土)
場所:Montgomery County, Maryland
距離:50マイル(約80キロ)
順位:63位(完走者251人中)
タイム:9時間38分33秒


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